2025/08/11上顎6番のⅢ度分岐部病変に対する再生療法 〜リグロス&骨補填材を用いた高度歯周組織再生〜
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大阪府箕面市の寺嶋歯科医院の寺嶋です。
今回はインプラントではなく、歯周病専門医としての技術を集結させた再生療法の症例をご紹介します。
上顎6番のⅢ度分岐部病変に対する再生療法
〜リグロス&骨補填材を用いた高度歯周組織再生〜
患者背景
50代女性。顎変形症のため矯正治療後にルフォー骨切術(あごの骨を切って位置を変える手術)を予定していましたが、矯正治療中に右上6番の歯周病が急速に進行。 歯肉の腫れと排膿を認め、歯周病専門医を探して当院を受診されました。
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検査では10㎜の深い歯周ポケット、Ⅲ度の分岐部病変を確認しました。
分岐部病変とは、奥歯の根の分かれ目の部分に骨の吸収が起こる病気で、特にⅢ度は骨が根の間を完全に貫通してなくなった状態です。
この状態は非常に保存が難しく、多くの場合は抜歯に至ります。
Ⅲ度分岐部病変が難しい理由(エビデンス)
奥歯は根が2〜3本に分かれていますが、その間の骨がすべてなくなると清掃が極めて困難になり、再生療法を行っても成功率が低いことが知られています。
- Hampら(1975)の報告では、Ⅲ度病変の歯の5年生存率は60〜70%程度
- Cortellini & Tonetti(2004)のレビューでも、Ⅲ度病変では完全な骨再生はほとんど得られないとされています
それだけに、この病態での歯の保存は非常にチャレンジングです。
診断
- 右上第一大臼歯(6番)のⅢ度分岐部病変
- 歯周ポケット:10㎜
- 排膿あり
- 骨吸収の進行(CBCTにて確認)
治療計画
矯正医と連携し、骨切術の前に感染をコントロールし、できる限り歯の保存を目指す方針としました。
最終手段として歯周組織再生療法を選択。
再生材料としてリグロス(rhFGF-2:骨や歯ぐきの再生を促す薬)と骨補填材を併用し、顕微鏡下で精密な手術を行いました。
術式の概要
術中:感染組織を除去し、骨補填材とリグロスを適用
術後経過
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- 術後直後〜14日:歯肉の治癒は順調で、炎症は急速に改善
- 術後6か月:歯髄炎症状が出現し、根管治療(抜髄)を実施。術部の骨や歯周組織には影響なし
- CBCTで骨充填を確認、機能的にも安定
- 予定通りルフォー骨切術も安全に施行された

- 術後2年:歯肉退縮はあるものの、ポケットは4㎜以下、出血なし
本症例のポイント
- Ⅲ度分岐部病変は保存困難とされるが、適切な診断・精密手術・再生材料の選択により良好な結果が得られた
- 歯髄炎は歯周外科後にまれに生じる合併症であり、早期対応が予後改善の鍵となる
- 矯正医や形成外科医との連携が重要
- 術後のSPT(Supportive Periodontal Therapy:定期的な専門メンテナンス)が長期安定の鍵
治療期間・回数・費用(目安)
- 治療期間:約3〜4ヶ月(術前準備〜初期治癒)+SPT継続
- 治療回数:5〜7回程度(手術含む)
- 治療費用:10〜25万円(税込)※自由診療
治療のリスク・副作用
- 術後の腫れ・痛み・出血
- 歯肉退縮による知覚過敏
- 歯髄炎や失活歯化の可能性
- 再生量は個人差があり、完全な骨回復を保証するものではない
寺嶋からのコメント
今回の症例は、残せないかもしれないと言われた奥歯を保存できたケースです。
患者さんからは「この歯を救ってもらえて本当に感謝している」と言っていただきました。
実際、この歯がダメになっていれば、矯正治療も予定していた骨切手術も全て計画が狂ってしまう状況でした。
難症例でしたが、矯正医や形成外科医と連携し、再生療法で歯を守れたことは私たちにとっても非常に意義深い結果です。
Ⅲ度分岐部病変は、残念ながら抜歯になるケースが多い難症例です。しかし、正しい手順を踏めば歯を守れる可能性はゼロではありません。当院ではマイクロスコープを活用した精密な歯周組織再生療法を得意としており、最後まで歯を残したいという方の力になれるよう努めています。
参考文献
- Hamp SE, Nyman S, Lindhe J. Periodontal treatment of multirooted teeth. Results after 5 years. J Clin Periodontol. 1975;2(3):126-135.
- Cortellini P, Tonetti MS. Regenerative periodontal therapy: a systematic review. J Clin Periodontol. 2004;31 Suppl 6:203-205.