2021/05/30(加筆修正版)蜂蜜は虫歯になるのか?の答えを求めて養蜂場へ・・・(注意:長文です)
- 院長の活動日記
こんにちは。箕面市の歯医者、寺嶋歯科医院の理事長の寺嶋です。
最近、ある患者様に「蜂蜜でハミガキしたら虫歯予防になると聞いたのですが本当ですか?」と聞かれました。蜂蜜そのものでは虫歯になりにくいとは思うけど、それでハミガキしたら良いのか?はいまいち明瞭に答えれず。
ということで、行ってきました養蜂場。 場所は、和泉市の「hachiiro」さん。実はここのオーナーの樋渡氏が当院のホームページを製作・管理してくれています。
hachiiroさんのサイトはこちら!!素敵なホームページです!
オーナーの樋渡氏は、IT企業で働きつつ、趣味で始めたのが養蜂。それが今では、本業を超える勢いとのこと。
前からその話を聞いていたので、勉強のため見学してきました。何でも歯科に結びつけたくなる性格です。 早朝から男たちが黙々と蜂蜜を採取していました。
樋渡氏(右)と 筆者(左 ミツバチにビビッて及び腰です)
いよいよ本題の蜂蜜効果について。(自分自身でも調べてみました。)
<加筆>
ここからが修正版です!2023年6月(この記事を最初に書いてから2年後です)に加筆修正致しました。
とある匿名者から、
「はちみつはむし歯になりますので、生化学から1度勉強し直したほうが良いと思います。各種学会など、歯科の集まりで多方面で馬鹿にされていますよ。
誤った情報を素人が発信するならいいですが、歯科医師がやってるのが信じられません」 (原文ママ)
とのメールが届きました!
なるほど、どう間違っているのかな??ということで再度調べました。この記事を最初に書いたときは、周囲の歯科医師仲間に軽く聞いただけで、確かに深くは調べずに発信してしまいました。個人のブログだけど、確かに歯科医師の肩書を背負って書いているため、情報は確かにしておかないと、一般の方に迷惑が掛かります。
指摘してくれた人ありがとう!
そして、私の結論は、
虫歯になるかもしれないし、虫歯にならないかもしれない。
実験室レベルでは蜂蜜は虫歯抑制効果がある。臨床試験においてもミュータンス菌を量を減らすことができる蜂蜜もあった。
しかし蜂蜜の品質を管理することは難しく、食品として発売されている蜂蜜のそれぞれの抗菌作用などの生理活性が明らかにはもちろんなっておらず、実際の日常生活で蜂蜜で虫歯予防をするということは、無理があるかもしれない。
従って、蜂蜜は虫歯になりませんという私の過去の表現も無理があるし、この匿名者の「はちみつは虫歯になります」というのも明言できないことであることが判明しました。
さてさて、ここからはマニアックな展開になってきます!
PubMedで、「honey」「caries」とキーワードを入れ検索し、
Antibacterial and Antibiofilm Effect of Honey in the Prevention of Dental Caries: A Recent Perspective. Foods. 2022 Sep 2;11(17):2670. doi: 10.3390/foods11172670. PMID: 36076855
「虫歯予防における抗菌および抗バイオフィルム作用~最新知見~」というタイトルの文献を今回ご紹介致します。
この雑誌のFoodsはIF5.5もあり、2022年と新しい論文かつオープンアクセスだったので、全文読んでみました。皆様も興味があればぜひお読みください。
その中でも今回の記事に関連する部分を抜粋します。
まずは、蜂蜜を科学的に説明してくれています。
・ハチミツは、アミノ酸、ペプチド、タンパク質/酵素、酸、ラクトン、ミネラル、ポリフェノールを含む他のマイナーな成分で濃縮された糖の過飽和溶液であり、組成のばらつきは抗菌および抗酸化活性を含む生物学的活性の変動につながる
・抗菌の主な要因は、低いpHと高い糖含量(浸透圧)、過酸化水素(H2O2)、グルコン酸、抗菌タンパク質であり、植物や地理的な原産地に関係なく、あらゆる種類の蜂蜜に存在する。しかし、その濃度は蜂蜜によって異なる。
・ギリシャの各種蜂蜜を用いた実験において、 全ての蜂蜜試料がミュータンス菌に対して抗菌作用を認めた。Voidarou, C, Appl. Sci. 2021, 11, 6318.
・5.5より低いpH値の溶液は、エナメル質の脱灰を引き起こす可能性がある。蜂蜜の酸性はとくにグルコン酸によるものであり、蜂蜜の酸性度はpH 3.4~4.5である。過去の研究において、マヌカハニーを含む3種類のハチミツについて、唾液で希釈した後でも、5.8未満のpH値を示した。これらのハチミツのpHが低いにもかかわらず、エナメル質表面の脱灰は検出されなかった。蜂蜜はpHが低いにもかかわらず、30分後でもエナメル質の脱灰を起こさないことが示されている。
・5つの甘味料(スクロース、フルクトース、パームシュガー、スクロース・蜂蜜)によるエナメル質の脱灰深度のin vitro比較評価によると、明らかに蜂蜜は、スクロースよりもむし歯誘発性が低いことが明らかになった 。(Razdan, T.R.; J. Int. Oral Health 2016, 8, 709.)
・最近の2つの論文において、天然蜂蜜はin vitroでエナメル質表面を再石灰化することができることが示されている(Celik, Z.C.; Niger. J. Clin. Pract. 2021, 1283-1288.)(Senthilkumar, V.; . Int. J. Dent. Oral Sci. 2021,,8, 1739-1743.)
・ミツバチ由来の酵素であるGOX、ポリフェノール、ラクトパーオキシダーゼなどが、虫歯抑制効果に関与している可能性がある
これらをまとめるとこのようなイメージ図になるそうです。この文献中のメインシェーマをそのまま引用させて頂きました
「Honey treated tooth」 って言葉があるようです。面白い!
つづいて、蜂蜜の臨床応用についての説明もあります。
ここからが大切ですね。研究室レベルのデータが実際の臨床ではどうなのか??
蜂蜜を虫歯予防製品として使用できるかどうかを調査した研究を、J.D.とJ.M.先生が同時に別々にPubMedで検索をして、評価した。そして意見の相違は、コンセンサスを得るための話し合いによって解決したとのことです。
その結果、蜂蜜が抗う蝕剤として使用されている9個の論文が選択されました。
それがこれだ↓ この論文より引用させて頂きました。
・2004年に実施された研究では、マヌカハニーは21日間の試験後にプラークスコアを有意に減少させた。対照群(無糖のチューインガム)では変化は観察されなかった。プラークスコアの減少において、マヌカハニーはクロルヘキシジンに匹敵する効果があり、3日間の治療後ではキシリトールチューインガムより優れていた。
・合計124人の小児を3つの治療群に分け、それぞれにマヌカハニー40%溶液(n = 41)、生はちみつ20%溶液(n = 41)およびクロルヘキシジン-0.2%溶液(n = 42)。それぞれの洗口液(10mL)を1日2回、21日間使用した。その結果、クロルヘキシジンと同レベルに、マヌカハニー溶液も生ハチミツタイプの洗口液も歯垢形成を有意に減少させることが示された。
・ミュータンス菌に対するクロルヘキシジン、ハチミツ、プロポリスの抗菌効果を60人の小児を対象に臨床評価した結果、3つの抗菌製品はすべて、30秒間の洗口後に菌量を減少させるのに有効であった(76%以上減少)。
ということで、蜂蜜は臨床現場においても、虫歯抑制効果があるようです。しかし、製品としての品質管理の問題、表記方法、「高温または長期保存にさらされたハチミツは、非常に弱い抗菌活性を示す可能性がある。」などと蜂蜜のクオリティーの問題提起がされていました。
最後にこの論文の著者の結論は
臨床の観点から、蜂蜜は魅力的で効果的な治療薬である。主に皮膚科、眼科、歯科を含む様々な臨床分野での局所適用が推奨されている。
蜂蜜の最も有益な特性は、抗菌/抗バイオフィルム活性であり、これはこれまでに最も研究されている生物学的効果でもある。
実際、虫歯菌の細菌量を有意に減少させることが示されている。
しかし、ほとんどの臨床研究の欠点が「はちみつの品質」と、臨床試験で用いられている蜂蜜の「抗菌・抗バイオフィルム活性の検査が欠けていることである。今後はそれらが行われた上での臨床試験に期待したい。
とのことでした。
では、上記の新しい知見を得た私が過去の自分のブログを修正していきます!!!!!!
私が過去に書いたもので、間違っていたものを抹消するのはアンフェアなので取り消し線を引いています。
主なはちみつの甘み成分は、ブドウ糖と果糖とのことで、これらは、虫歯菌が餌に出来ないため、そのまま食べても虫歯になりません。食べたものがはちみつだけなら、歯を磨かなくても虫歯にはならないのです。
(加筆分)ハチミツの糖分のほとんどはグルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)、少量のオリゴ糖とスクロース(ショ糖)が入っているため、虫歯菌が代謝して、酸を酸性してしまい、理屈的には歯の脱灰が生じます。
しかしながら、先ほど紹介したレビュー論文によると、実験室レベルでも臨床では、複雑な組成をした「蜂蜜」ものそのもので考えると蜂蜜の脱灰に及ぼす影響力は強くないかもしれない。それはハチミツの品質にも大きく影響される。
確かにプーさんはハミガキしていないけど、虫歯になっていない(知らんけど)
(加筆分)↑これはほんまに知らない(;^_^A
虫歯菌は、食物の糖分であるグルコース(ぶどう糖等)を餌とし、その代謝産物として酸を排出するので、その酸が歯の硬組織を酸触した結果を虫歯と言います。
蜂蜜の糖分は前述したように、グルコースとは違い多糖類なので、酸が産生されにくく、虫歯になりにくい。
(加筆分)先ほど訂正したとおり、ハチミツの糖分のほとんどはグルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)だそうです。理論的には、普通に脱灰されますね。しかしながら、実験室レベルでも臨床では、複雑な組成をした「蜂蜜」ものそのもので考えると蜂蜜の脱灰に及ぼす影響力は強くないかもしれないとのことでした。
文献的には、蜂蜜には、他にも歯石抑制効果や、殺菌作用、保湿作用とか色々良い効能を有しているようです。
見事なハニカム構造!!実は歯の世界にも、歯科医師なら誰でも知っている歯のハニカム構造があるのです(マニアな方はお調べ下さい)。
さらにはインプラントの骨造成(GBR)の時に使われる膜にもハニカム構造があるのです!(ハニカムメンブレン)
いや~ 天然のハニカム構造を見てプロとしてついついテンションが上がってしまいました。
Q 蜂蜜で歯磨きすれば虫歯にならないか?
A 虫歯になるかどうかは、虫歯菌の量や、歯の強さや、砂糖の量やそれが滞在している時間など、色々なことが関わっています。
(加筆)過去の研究では、蜂蜜洗口液なるもので、洗口したところ、プラークが付着しにくくなったという研究もあるぐらいです。そういう研究結果があるということを知ることが大切かもしれません。匿名者に指摘されてから、真剣に勉強した私が言うのもなんですが・・・
それらのことを無視して、単に蜂蜜で歯磨きだけしていても虫歯になるでしょう。
虫歯予防はそんなに甘いものではありません・・・蜂蜜だけに ( ゚Д゚)
ネット情報を全て鵜呑みにするのではなく、自分で考えて行動してくださいね。
ヘルスリテラシーが求められる時代です。
蜂蜜で虫歯予防!って考えるよりは、シンプルに食品として純粋に味を楽しむぐらいが「一般的な価値観」かと思ってます。(一般的って何?ってまた突っ込まれるかもしれませんが)
皆さま、純国産の蜂蜜はネットから購入できます!
当院には、非常に優秀な管理栄養士もいますので、彼女に蜂蜜についてコメントを貰いました。(←ここまでやるか?!)
参考文献の研究レベルはそこまで高くないことより、蜂蜜ってそれだけまだまだ未知の食品であることがわかります。
↓↓ここからは管理栄養士辻本からのコメント↓↓
「ハチミツ」ですが、ミツバチによって採取された蜜はサラサラで、巣の中で蜜蜂の体温と酵素によって水分は蒸発、糖化されドロドロとしたハチミツになります。
ハチミツと一言に言っても、花の蜜は多様で、メジャーなものはアカシアやレンゲで比較的あっさり、癖のないハチミツかと思いますが、ソバなどは見た目や味、成分が違います。またハチミツには種類があり、純粋ハチミツ、加糖ハチミツ、精製ハチミツが売られており、蜜源や種類によって虫歯予防効果は違いがあるかもしれません。
せっかくですので、一般的なハチミツの成分についてまとめてみました。
ハチミツの成分は種類によって違いますが、おおよそ主成分はグルコース35%、フルクトース40%、スクロース数%となっています。砂糖よりも少ない量で同等の甘味を出せるため、エネルギー量を少なく甘味を出すことができます。
(お菓子作りでは砂糖の代わりにはちみつを使うと、焼き目がつきにくくなるので、仕上がりに違いはでます。)
他にもハチミツは鉄、ナトリウム、カリウム、ビタミンB1、B2、パントテン酸などが含まれています。またハチミツに特有の有機酸であるグルコン酸は大腸まで到達し、腸内のビフィズス菌を増やすと報告されています。
・グルコン酸およびその塩類の特徴・機能について https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030692476.pdf
・グルコン酸のヒトの腸内細菌叢に及ぼす影響 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jim1987/8/1/8_1_29/_pdf/-char/ja
また、ハチミツはマウスの肺の感染防御において重要な役割をしている免疫細胞である肺胞マクロファージ(AM)の免疫機能を増強させる可能性が示唆されていますが、種類によって効果が異なる可能性が示唆されています。
別の論文でも、マヌカハチミツなど一部のハチミツにのみ高い抗菌効果があることが報告されています。
・日本国産ハチミツによる肺胞マクロファージの免疫機能に及ぼす影響
https://ksu.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=2625&item_no=1&page_id=13&block_id=21
・純粋ハチミツが必ずしも抗菌効果をもつとは限らない
https://fukuoka-pu.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=388&item_no=1&page_id=13&block_id=21
今のところ、
・ビフィズス菌を増やす腸活に用いることができそう
・エネルギー摂取量を控えた甘味料として使用することができる
というコンセンサスは得られているようです。
口腔内を含め、全身に対するハチミツの効果はさらなる報告が待たれます!
【注意】~1歳未満の乳児に蜂蜜を食べさせないでください~
ボツリヌス菌を原因とする乳児ボツリヌス症の発生を防止するため、1歳未満の乳児に蜂蜜を食べさせないでください。(農林水産省HPより)
(文責 管理栄養士 辻本)
そして最後のに私の結論!!
詳しく調べずして、歯のことブログで語るのやめようって思いました・・・
自分の専門のインプラントと歯周病のことだけにしておこう・・・
お世話になっているhachiiroさんの蜂蜜を紹介したいだけで書いたブログで、学術的なことはおまけのつもりだったけど、色々あり結構な力作に発展してしまいました(笑)
以上、文責は歯科医師の寺嶋宏曜でした。
ちなみに、私の同級生の某大学歯学部細菌学教室准教授や友人の医師たちにもこのブログ読んでもらってOK頂きました。読んでくれた友人たちありがとうございました!
ti!