2025/06/25歯を抜いたその日にインプラント。3か月後に咬めるようになった症例──他院の歯科医師も見学・評価
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はじめに
「歯を抜いたらすぐにインプラントできますか?」
そんなご相談をよくいただきます。
当院では、年間350本・累計3000本以上のインプラント治療を行ってまいりました。
今回ご紹介するのは、嚢胞があり骨吸収が多い歯を抜歯したその日にインプラントを埋入し、3ヶ月でかぶせ物を装着した症例です。
今回は、歯科医師の方にも参考になるように症例報告形式で構成しました。
患者さまにも、歯科医療に携わる方にも伝わる内容を心がけています。
症例概要
・患者:62歳 女性
・部位:左上第2大臼歯(#27)
・主訴:咬合時の痛みと動揺
・診断:歯根破折、歯根嚢胞疑い、根尖性歯周炎、軽度上顎洞炎
・治療方針:抜歯即時インプラント埋入、非荷重、3ヶ月後補綴(仮歯なし)
治療の流れ
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術前評価・CT診断
骨壁の保存状態、感染源、上顎洞の距離を確認。従来であれば、抜歯後に数ヶ月の治癒期間を設けた上でインプラントを埋入し、さらにその後に補綴(かぶせ物)を行うため、治療全体に半年以上かかるケースも少なくありません。しかし今回の症例では、抜歯当日にインプラントを埋入し、骨や周囲組織の状態を慎重に見極めながら3ヶ月間の治癒を確保。その後、補綴を装着することで、従来よりも大幅に短い期間で咬合の回復が可能となりました。このように、適切な症例選択と歯科医師側の技術があれば、治療期間を最小限に抑えることができ、患者さまの身体的・心理的な負担の軽減にもつながります。 -
抜歯と埋入
感染部の徹底的な掻爬を行い、インプラントを埋入。(ここが最も重要なパート)
ギャップには骨補填材を使用。オペ時間30分程度。
仮歯は装着せず、非荷重で3ヶ月間の治癒を待つ戦略をとった。 -
補綴と咬合回復
ISQ値が安定したためジルコニアクラウンをスクリューリテインで装着。製作者:当院技工士の大谷。治療期間はたった3カ月。
審美性・機能性ともに良好な結果を得られた。
術後のCTと経過
術前に認められた上顎洞粘膜の肥厚は、感染源の除去により自然軽快した。根尖部に感染があったとしても抜歯即時埋入が可能であることが示唆された。
筆者はこれまでの経験からも、根尖部の感染は即時埋入を制限するものではないと実感している。(参考症例はこちらから!)
患者さまの声
治療後のアンケートでは「非常に満足」とのご回答をいただきました。
治療の結果だけでなく、その過程にもご満足いただけたことは、私たちにとっても大きな喜びです。
写真撮影へのこだわり
当院では、術中写真も鮮明に丁寧に記録しています。
これは術後の振り返りや若手歯科医師への教育、患者さまへの説明にも役立つ重要な記録です。
「見えないところまで、丁寧に」──それが当院のポリシーです。
今回のオペには、他院の歯科医師3名が見学に来られており、治療後には以下のようなご感想をいただきました。
当院では、単に治療を行うだけでなく、知識や技術を他の歯科医師と共有し、学び合える環境づくりも大切にしています。
この症例が、患者さまにとって安心できる治療であっただけでなく、臨床を学ぶ先生方にとっても有意義な機会となったことを嬉しく思います。
寺嶋コメント
インプラント治療は、治療法を選ぶ技術だけでなく、「この患者さまにとって何がベストか」を考え抜くことが大切です。
これからも、ひとつひとつの症例に真摯に向き合いながら、 「やって良かった」と思っていただける診療を続けてまいります。
インプラント治療におけるリスクと注意点
・骨の状態や体調によっては即時インプラントが適応できない場合があります
・術後に腫れ・痛み・内出血などの症状が出る可能性があります
・骨との結合が得られない場合、再治療が必要になることがあります
・治癒中に歯がない期間(本症例では約3ヶ月)があります
・糖尿病・喫煙・骨粗鬆症などの持病がある場合、成功率が下がることがあります
治療法は患者さまごとに異なります。
十分な検査とご説明のうえで、最適な方法をご提案しています。
文責 寺嶋宏曜